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静嘉堂文庫の曜変天目の実物を見た感想。本物は艶やかでした

静嘉堂文庫美術館で6/13まで開催の「旅立ちの美術”Departure”」に行ってまいりました。
もちろん目的は「国宝・曜変天目茶碗(稲葉天目)」です。
静嘉堂文庫美術館は2022年秋ごろにギャラリーを丸の内に移すこともあって、今の世田谷での展示は最後となります。
静嘉堂文庫

この展示は前期・後期と分かれており、前期は静嘉堂文庫所蔵のすべての国宝が見れ、後期は国宝2点と他の所蔵している美術品が見れるかたちです。
曜変天目はどちらでも見れるのですが、他の国宝も見たかったので前期に行く予定でしたが、美術館の緊急休業により後期に見に行くこととなりました。
その分、曜変天目をじっくり見ることができたので良しとします。

このような天目を研究・紹介するサイトを運営している者として、せっかくなので写真で見る曜変天目とどう違って見えるか、当サイトに掲載の毫変盞とどう違うのか、そういった観点から静嘉堂文庫の曜変天目のレポートをしたいと思います。

ちなみに、静嘉堂文庫の曜変天目の写真は無償掲載不可なので、公式サイトの写真を見ながら読んでもらえればと思います。
http://www.seikado.or.jp/collection/clay/001.html

写真ではわからない曜変天目

静嘉堂文庫の曜変天目は一番有名であり、沢山の雑誌や本、ホームページなどで紹介されているだけあって、その姿を写真で見たことがある人も多いと思います。
しかしその写真は静嘉堂文庫が用意している同じものを使用しており、新たに撮影することはめったにありません。それほど大切にされているのです。
そのため写真では同じ角度の曜変天目しか見ることをできず、実物の曜変天目は全然違った印象を受けます。

曜変天目は直径12cmほどですが、本などではわかりやすさと見栄えからそれよりも大きく掲載されています。
そのため、実物を見てみると意外にもその小ささにまず驚かされます。
同じサイズ感の天目茶碗は多く見ており、触ったこともあるはずなのに、曜変天目って小さいなと感じるのです。
でも、決してガッカリしたとかそういうことでなく、小さい中にとても凝縮された印象です。
色は青だけでなく緑や黄色、紫など写真ではわからないほどカラフルで、角度を変えることで中間の色を見ることができます。
釉薬のガラスの光沢がとても綺麗で、その光沢は誌面やパソコンの画面では表現しきれず、角度を変えて見るとその光沢はより輝き、そしてその光沢により茶碗の立体感がわかります。
斑紋の白い部分はその光沢も相まって銀色っぽくもあり、鉄釉の金属を感じさせます。
黒釉自体は実際にはかなり黒に近い青であることがわかり、呈色反応や曜変現象で青がでるような釉薬であることがわかります。
本では斑紋一つが大きく見えますが、実際にはかなり密集していて一番小さいものだと1mm程度しかなく、その緻密さに驚かされます。

そして、写真では決まった角度からしか見ることができないので、茶碗の形状がわかりません。
実物を様々な角度で見ることで初めてその形がわかり、左右の均一性、口縁部のスッポン口のくぼみは思ったよりはっきりしていることがわかります。
口縁部の形状はかなり精巧にできており、写真で見るより薄くシャープな印象を受け、釉薬の流下現象が360度ほぼ均一に起きていることから、その精巧さがわかります。

これだけの情報が、たった12cmの中に凝縮されているという印象です。

実は静嘉堂文庫の曜変天目の本当の第一印象は「作り物っぽい」というものでした。
もちろん茶碗は製品であり作り物なのですが、そういったことでなく、とても現代アート的というかそれこそ模様も形も相まってデザインを予め決めて作ったもののような印象という意味で、作り物っぽいなと感じたのです。

しかしながらこれが作られた宋代や日本に渡ってきた当時を考えると、他に類を見ないデザインの茶碗ということで、とても幻想的であり、一説による不吉なもの、物の怪のようなものと言われていたのもとてもわかります。
このデザインの茶碗は絶対に宋の時代の人の方が、おどろき感動し、心を震わされ、楽しんでいたであろうと思います。
現代の人は奇抜なデザインの食器や物を見慣れているでしょうから、天目を調べてないほとんどの来客者は、すごい綺麗くらいにしか思わなかったでしょう。

茶碗の形状だけでも十分な陶工の技術に、窯変現象による模様の凄さが合わさっているのだから、曜変天目はこの世のものとは思えないほどの情報過多を起こしている、そういった茶碗であると私は思います。

このサイトの曜変天目(毫変盞)と比べてどう感じたか

このサイトのメインコンテンツにも書いているように、静嘉堂文庫の曜変天目に比べ当サイトの曜変天目の方が器胎は厚くできています。
これは写真ではあまりわかりませんが、実物を見ると一目瞭然でした。


と言っても口縁部の最端に関してはどちらもシャープな印象で、下に行くにつれて厚みが多くなる感じでした。
その落差が大きいからこそ、当サイトの方が口縁部の流下現象は強く出ているのかもしれません。
これは静嘉堂文庫のものより少し古い時代にできたものであるからと推測しております。

釉薬自体は当サイトの天目の方が黒の部分が黒〜暗い茶色っぽくあり、静嘉堂文庫の方が黒青といった印象です。
かなり違う印象を受けたのは、光を当てた時の模様の見え方です。
静嘉堂文庫のものは模様が白〜銀色の部分もあり、またプリズムのような輝きがあるため、暗めの光でもよく見えると思います。
展示は光を当ててあったものの、その光の強さから推測するように、自然光でも模様が見えるのでは思われます。
実際に、見せていただいた映像資料には自然光での茶碗の様子があり、大きく印象の変わらない茶碗でした。

それに対して、当サイトの天目は強い反射をするわけでないため、暗いところではあれほどには模様は見えません。
当サイトの天目の方が強い光と弱い光で印象が変わる茶碗はであると思います。

模様の種類は明らかに違い、円形の斑紋があるものを曜変天目とするのであれば、やはりこのサイトの天目を今の定義での曜変天目と括るのはちがうのかもしれません。
しかし、一見違うと思われる模様でもある種の共通性は見えます。
まず、模様の入っている位置がやはり静嘉堂文庫のものと近いということです。
そしてもう一つは、線条の模様のつながってできた円形の大きさは、静嘉堂文庫のものととても近いということです。
一番小さいものだとやはり1mm程度であり、その共通点は見受けられます。
これは焼成時の気泡であったりの曜変現象に何かしら近しいものが起きている可能性があるというふうに考えることもできます。

静嘉堂文庫の曜変天目と比べることで、また新たな発見ができる展覧会でございました。

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